最終更新 平成16年4月28日

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脳の成長

 

◆脳のつくり

皆さんは人間の脳を見たことがあるでしょうか。実物ではなくても、テレビなどで脳の模型を見たことがあるという方もいるでしょう。脳は、主に、100数十億といわれる神経細胞と、それをとりまくグリア細胞(日本語では膠(こう—「にかわ」の意)細胞)、それに血管とでできています。脳はどんな働きをするかというと、物を見たり聞いたりする、手足を動かす、ものを考えるといったような働きをし、いわば、私たちの生活・行動の司令塔になっています。そして、音を判断するのは横の部分、見たものを判断するのは後ろの部分、手を動かすのは真ん中の少し前の部分などというように、おおよそ、脳の各部分が役割分担しています。

 

◆脳の柔らかさ

このような脳の働きは、神経細胞どうしの結びつき(「シナプス」といいます)によって担われています。新しい物事を学んだり、学んだことを生かして円滑に行動することができるようになるのは、このシナプスの結びつき方が変化するためです。ですから、私たちが新しい環境におかれたときに、そこでうまく環境にあった行動がとれるようになるのは、このシナプスの結びつき方が変化するおかげというわけです。脳梗塞で神経細胞が死んでしまうと、その神経細胞が担っていた働きがそこなわれ、体が麻痺してしまったり、言葉がしゃべれなくなってしまったりします。しかし、うまくリハビリテーションを行うと、周りの神経細胞が代わりをしてくれて、少しずつ体が動くようになってくれます。これもシナプスの結びつきの変化のおかげです。脳は、非常に「柔らかい」側面を持っているといえるでしょう。

 

◆脳はどのように発達するか

ところで、脳は、どのように発達し、老化するのでしょうか。脳は胎児期から成人期、老年期に至るまで、大きく変化します。まず、神経細胞は、おおよそ胎児期に生産されてしまいます。そして、2歳ごろまで、シナプスが劇的に形成されます。その後、必用なシナプスの結びつきを強化し、不要なシナプスを削除していくpruning(刈り込み)という作業が行われます。一方、神経細胞をとりまくグリア細胞は、どんどんと成長していきます。グリア細胞はミエリン鞘というものを作って神経細胞を包み込んで保護する働きを持っています。これによって、神経細胞どうしのやりとりが効率化されるのです。脳がしっかりと働くためにはこうしたグリア細胞の働きが不可欠なのです。グリア細胞が脳全体にしっかりと行き渡ることによって、脳が発達を遂げるとされているのです。

 

◆脳はいつまで成長するか

では、脳はいったい何歳ごろまで成長を続けるのでしょうか。神経細胞とグリア細胞の成長を見てみましょう。まず、神経細胞については、これまで「神経細胞は一度死んでしまうと再生しない」という定説がありました。したがって、神経細胞はずっと減り続ける、と思われていました、ところが、最近の研究では、少なくとも脳の一部分では、生涯にわたって活発に神経細胞が生産されているらしいということがわかってきました。一方、グリア細胞についてはおよそ20歳ごろ、成長が完了すると言われていました。つまり脳の発達は20歳ごろ完成し、あとは老化の一途であるというわけです。ところが、最近の研究では、グリア細胞の完成は40歳すぎまで続くらしいことがわかったのです。つまり、脳は40歳すぎまで成長し続けるのです。

 

◆脳の変化を促すもの

幼・小児期には多くのシナプスが形成され、劇的にpruningが行われることによって、社会に適応する脳が形作られます。脳がもっとも柔らかい時期といえるでしょう。一方、それ以降は、徐々に柔らかさを失う一方、複雑な働きを効率よくこなすための発達が中年期まで続きます。また、中高年になっても、脳梗塞後のリハビリテーションに代表されるように、ある程度の脳の柔らかさが維持されます。シナプスのpruningは、不要な、つまり使わないシナプスを削除することによって行われます。また、神経細胞は、ストレスによって妨げられ、適切な刺激によって促進されます。ですから、さまざまなことに興味を持って、脳に刺激をあたえることによって、柔らかい脳を保つことができると言えるでしょう。

 

20歳を過ぎれば脳は老化の一途をたどる」というのは誤解です。脳に適切な刺激を与え、健康的な変化を促していくこと、それが、生き生きとした脳を作ることだといえます。

 

◆参考文献

Eriksson PS, et al: Neurogenesis in the adult human hippocampus. Nat Med. 4(11):1313-7,1998

死後脳組織を検査して成人の人間の脳の神経細胞が増殖することを示した

 

Shors TJ, et al: Neurogenesis in the adult is involved in the formation of trace memories. Nature Mar 15;410(6826):372-376, 2001

海馬(脳の領域の一部)での神経細胞新生が記憶形成に関わることをラットで示した

 

Gould E, et al: Regulation of hippocampal neurogenesis in adulthood. Biol Psychiatry 48: 715-720, 2000

神経細胞の新生が不快な刺激によって阻害され記憶課題などの刺激で促進されることなどの研究をまとめた

 

Bartzokis G, et al: Age-related changes in frontal and temporal lobe volumes in men: a magnetic resonance imaging study. Arch Gen Psychiatry. 58: 461-465, 2001

人間の脳の画像診断によって脳のミエリン生成に関わる部分(前頭葉白質)が40代半ばまで成長することを示した