精神保健福祉瓦版ニュース No.176

2012.5.23       福島県精神保健福祉センター

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この「精神保健福祉瓦版ニュース」は、精神保健福祉についての情報及び市町村や社会復帰施設等の活動内容などを紹介するため、毎月1回発行しています。

---- 今 月 の 内 容 ----

活動報告−いわき市保健所の心のケア活動報告    いわき市保健所地域保健課

コラム−自殺対策の考え方が精神保健を変える    精神保健福祉センター所長  畑 哲信

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活動報告          いわき市保健所の心のケア活動報告

                                  いわき市保健所地域保健課

〔震災後の状況〕

 3・11震災時、総合保健福祉センター内では乳幼児健康診査・青年期グループワークなどの事業が開催されていました。いつも通りしばらくすれば収まるものと思っていた揺れが通常のものでなく、避難の判断がされて、まず来所者の避難誘導をして、雪のちらつく寒い中、センターに何度も出たり入ったりしながら不安な時間が過ぎました。直後から電話等は不通となり、事務所内に戻っても情報はテレビだけで、地元の状況の詳細は分からず、このような災害になるとは考えもしませんでした。

津波被害も重なり多くの避難所が開設され314日には、避難所145か所に15,445人が避難されていました。

広範に及ぶ断水や都市ガス・食料・ガソリン等の供給が止まり、また、医療機関や薬局があいついで閉鎖される中、住民の不安は大きく、保健所全体では原発事故による放射能やその他様々な住民の不安に対し電話やその都度の対応に追われていました。

原発事故の報道と共に市民の市外への避難が相継ぎ、道路に車もなく住宅街の明かりも消え一時ゴーストタウン化すると共に、残った市民や災害対応に当たっている若い職員の不安気な切羽詰った表情が今も記憶に焼きついています。

 

〔医療機関の状況〕

 市内精神科医療機関は、入院者を抱え、水・食料・衛生材料や人員の不足等大変な状況を乗り切りました。病院食もメニューを徐々に変化させながら対応し、職員が給水所に並んで飲料水を確保したことなど聞いています。

状況により、入院患者移送も行われましたが、放射能の影響が懸念され移送先から線量検査が求められたため、検査のための調整も必要でした。

地区の医療機関も一時は閉鎖しており、治療中断を余儀なくされた方もあり、市内医療機関や薬局の開設状況の情報提供を行いましたが、心のケアチームの巡回による診療・処方・医薬品の提供は病状の安定と共に、心の安定にも繋がりました。

 災害から一か月後には、市内のほとんどの病院・クリニックが通常診療に近い状況となりましたが、医師の減少はありました。

 

〔心のケア活動〕

 317日に県精神保健福祉センターから福島県立医大からの心のケアチーム派遣の連絡をいただき、319日に第一陣の県立医大心身医療科と大阪さわ病院のスタッフがいわき入りしました。チームは医薬品・食料・水・ガソリン持参で、市内の宿泊場所も機能していなかったためセンター内の乳幼児健診室にシュラフを持参して宿泊。当日から精力的に避難所訪問を開始しました。

 避難所開設中は避難所巡回を中心に、来所相談・電話相談・家庭訪問を行い、市内の保育所・幼稚園・学校が再開されたころには、職員・保護者やまた社会福祉協議会等とも連携して、いきいきサロンの高齢者や子育てサロンの担当スタッフへの健康教育を実施してきました。

 少しでも早く、通常の保健事業の再開をと考えましたが、余震が続く中、再開できたのは6月以降となりました。

 

〔現在の心のケア活動〕

 震災以降、心のケアチームの支援は日数や人員を減少しながら継続し、平成244月末までに実人員170名(延931名)の支援をいただいております。

 現在も、概ね週2日の支援体制をとっています。

 チームは、来所や電話での相談、保健師や見守り訪問スタッフに同行しての家庭訪問も実施し、また、それは支援者や家族への支援としても機能しています。

 本市においては、避難者のほとんどが民間アパートを借上げた一時提供住宅に入居しており、仮設住宅入居者はほんの一部であるため、様々な見守り体制により、月1回の訪問を目標に活動していますが、一時提供住宅での面接率は低く、そのアセスメントに苦慮しています。

この見守り体制の中から専門支援の必要な方がリストアップされ保健所に連絡され、専門職(医師・臨床心理士)の個別対応を行っています。

 震災1年目を迎えた3月には、相談状況がどのように変化するのか危惧されましたが、現相談状況は落ち着いています。

 しかし、1年が過ぎてもPTSDの症状が続いている方も見え始め、複数回の相談を希望される方も出てきています。

 また、市内医療機関の外来受診者数は多く、受診に時間がかかりますし病棟もほぼ満床で、精神科医師の疲労も大きいようです。

 過去の災害から、今後は生活再建が進まない方や社会的弱者(乳幼児・高齢者・障害者等)といわれる方への継続支援の必要性や、アルコールやギャンブル依存の増加が懸念されていますが、きめ細かな見守り体制により、これらの方々を見逃すことなくフォローしていければと考えています。

 地域も広く、対象も多いことから身近な人による「きづく・つなぐ・まもる」を実践していけるために、自殺予防対策とも併せて広く市民への意識付けを行うために、今年度は出前講座のメニューに「ストレス・アルコール・ゲートキーパー」を載せ、実施していきます。

 何かにつけて、「心のケア」ということが言われ、今後も続くと思いますが、支援にお出でいただいた先生の「心のケアとは専門家による特別な対応ではなく、身近な人の関わり全てが心のケアです」と言われた言葉を思い出し、生活の中での触れ合い全てが当事者にとっての心のケアになっていることを理解していただくと共に、更に精神保健の専門的支援ができる体制づくりを行い、それらを利用していただけるよう地域への周知に努めていきたいと考えています。

  (報告者:精神保健係長 相原好子、指導保健技師 山縣紀子、主任保健技師 鈴木美智子・菅野忍)

 

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コラム         自殺対策の考え方が精神保健を変える

                       福島県精神保健福祉センター所長  畑 哲信

1.自殺対策と精神保健

 福島県では平成15年度に自殺予防対策協議会を設置し、自殺対策が本格的に進められてきました。その後、平成18年に自殺対策基本法が制定されるとともに、平成19年には自殺総合対策大綱が策定され、国を挙げて自殺対策に取り組むことになりました。今や、自殺対策は精神保健の最も重要な課題であると言えるでしょう。

 当初は従来の精神保健の手法を応用して進められてきた自殺対策ですが、逆に自殺対策によって精神保健の手法が改革されてきたという側面もあるように思います。その点について見てみましょう

 

(1) 指標としての意義−数値性

 まずは、自殺予防によって、精神保健は、自殺者の減少という明確な数値指標を得ることができました。もちろん、自殺者数を指標とすることについてはいくつかの問題点があります。一つは人口10万人あたり年間20-30人という頻度の少ない事象であるために、誤差の影響を受けやすく、また短期的な効果がとらえにくいという点です。二つ目は自殺に関わる要因が複雑であるために、取り組みごとの成果指標としては不適切であるという点が挙げられます。つまり、自殺者が減っても増えても、それがどの要因によるものかが判然とせず、その結果、どの取り組みが有効であるかとか、何が不足であるかといったことがわからないのです。

 それにも関わらず、自殺者数を指標とすることの意義が大きいのは、これまで、精神保健にかかる指標が「悩みを感じる割合」といった主観的であいまいなものしかなかったという現状があります。具体的な指標を得たおかげで、「この指標を○○%減らすために何が必要か、何が足りないか」といった議論がされやすくなったと言えます。すなわち、自殺者数を成果指標と用いることには限界があり、数値の上下に一喜一憂することはあまり意味がないのですが、計画立案のための指標として用いることは、対策を促進する力になります。

 

(2) 手法の変化−総合性

 従来、精神保健は、ストレス対応のセルフケアと、精神疾患の早期発見・早期治療を目的とした普及啓発と相談や支援が中心で、いずれの取り組みも、精神保健の枠内に留まるものでした。しかし、自殺対策においては、精神保健のみならず、生活面の支援が欠かせないことが認識され、むしろ、これら両面にまたがる課題こそが解決すべき問題であると認識されるようになってきました。そうなると、精神保健の枠内での取り組みには限界があり、経済的な問題や雇用の問題などへの取り組みと連携した事業が行われるようになってきました。実は、自殺対策に限らず、心の問題には生活面・経済面の問題などが深く関わるものであり、連携した取り組みは、精神保健の本来あるべき姿だったと言えます。それが自殺対策という取り組みを経て、ようやく達成されつつあるというわけです。

 

(3) 体系的アプローチ

 数値性と総合性という2つの特徴を得て、自殺対策はより体系的なアプローチがとられるようになりつつあります。(1)で示したように、自殺者全体の数を見るだけでは、取り組みごとの役割があいまいなままです。しかし、高齢者、特定の職業従事者(たとえば一次産業)、精神疾患による治療患者、求職者や主婦以外の無職者、というように、対策と関連づけて対象グループを抽出し、各グループについての自殺者数を指標とすると、数値の意義が変わってきます。すなわち、全体で年間500人の自殺者を何人減らすか、というあいまいな目標設定から、特定のグループの年間50人の自殺者を何人減らすかという、より具体的で責任の明確な目標設定をすることによって、より焦点を絞った自殺対策を考えることができます。さらに、複数のグループを設定することによって、年間500人の自殺者のうちの、たとえば300人分について対策が講じられた、となれば、「では、取り組みが不足している残りの200人分についてどのように取り組めばよいか」と、自殺対策全体の体系を見ながら今後の課題を探ることができます。すなわち、自殺対策がより体系化されることになります。

 

2.被災者の心のケアへの示唆

(1) 被災者の自殺者数という指標

 こうしたことはもちろん、今、課題となっている被災者を対象とした精神保健についてもあてはまります。被災者の心のケアにおいても自殺予防は重要な課題です。被災者自殺予防の数値指標については、前年までの数値との比較という手法はとれないので、とりあえず、一般人口の自殺者を参考に考えてみましょう。一般人口の自殺者は10万人あたり年間20-30人ですから、福島県内の避難者がちょうど10万人弱なので、県内避難者の自殺者数は年間20-30が一般人口と同じレベルということになります。もちろん、一般人口と比較することは、年齢分布も異なるし、生活状況も異なるので、これが妥当かどうかという点については疑問が残ります。しかし、たとえ目安としてであっても、このように具体的に考えると、たとえば、避難者1人の自殺を防ぐということの重みが、よりはっきりと認識されるでしょう。つまり、全県民の年間500人のうちの1人ではなく、予測される20-30人の1人だからです。

 

(2) 体系化

 被災者・避難者は一般県民よりもストレスを多く負っているので、被災者・避難者全体が精神的健康を損ねる高いリスクを負っています。そのため、できるだけ全ての人がケアに漏れることがないように、より体系化を心がけなければなりません。今回は被災の規模が大きく、「漏れがないように」と言っても一筋縄ではいきません。それぞれの取り組みによって、どの範囲の人が対象としてカバーされていて、どのくらいの人が対象から漏れているかということを意識しながら取り組みを進めることが大切でしょう。たとえば、心の健康調査などを行ってリスクの高い人をスクリーニングするといった場合、回答が得られなかった人に高リスクの人がいるということが少なくないからです。

 

(3) リスク要因の探究

 被災者・避難者が多くのストレスを負っていることは予想されますが、具体的にどのようなことがストレスになるかという点については、そのすべてをあらかじめ的確に予想することは難しいでしょう。通常の生活とは異なる面が大きいからです。たとえば、身内を亡くしたということが大きなリスク要因であることはわかります。しかし長期化する避難生活によってどのようなストレスがもたらされかといったこと、あるいは、身近な人との関係やコミュニティの変化によって、支えあいのシステムがどのように損なわれたかということ・・こうしたことが実際にどの程度、被災者の心に影響しているかということは、被災者の声をじっくり聞かなければ判断がつかないものです。そうして、個々のケアの中で新たなリスク要因に気づいたときは、それがその対象者の特殊事情によるものではなく、他の多くの被災者にもあてはまることかもしれないと考えて、広い視野から検証する、といったように、ケアとリスクの発見とを同時並行して進めることになります。=================================================================================